BARの価格設定のコツ|利益を残す考え方を解説

「安くしないと客が来ない」と思っていませんか。それは間違いです。
BARにおいて「安すぎる価格」は、客を増やすどころか、経営を壊す最短ルートになります。

この記事では、BARの価格設定を
「どう決めるか」「なぜ安すぎてはいけないか」「値上げするにはどうするか」を、
FP資格を持つ現役オーナーが数字と現場の両面から解説します。

安すぎが危険な理由|4つのリスク

「安くすれば客が来る」という発想は、BARにおいてほぼ通用しません。なぜか。安さで集まる客は、もっと安い店が出たら移っていくからです。そしてそれ以前に、安い価格で経営を続けること自体が不可能です。

現場で繰り返し見てきた真実

「安くしたのに儲からない」は矛盾ではない。
安くしたから儲からないのです。
リスク 01 

固定費を回収できなくなる
BARには毎月、家賃・光熱費・仕入れ費・消耗品費など必ず出ていく固定費があります
1杯の単価が低いと、その固定費をカバーするために膨大な杯数を売らなければなりません。

具体的な数字で考える
月の固定費が30万円のBAR。1杯800円で売った場合、
固定費だけをカバーするのに375杯必要です。
1杯1,400円なら215杯。この差は一人営業では決定的です。

正しい考え方
「何杯売れば固定費が賄えるか」を先に計算する。
その杯数が現実的でなければ、価格を上げるかコストを下げるしかない。
リスク 02

「安いBAR」というブランドイメージがつく
価格はそのままブランドイメージです。
安い価格で始めると「このBARは安いところ」というポジションが客の頭に刷り込まれます。
後から値上げしようとしても、「前は安かったのに」という反発を受けることになります。

BARは「安さ」ではなく「空間・技術・体験」を売る場所です。
最初から適正な価格で「この価格が当然」という認識を作る方が、長期的には正解です。

価格が伝えるメッセージ
1杯600円のカクテルは「安いBAR」。
1杯1,400円のカクテルは「ちゃんとしたBAR」。
同じレシピのカクテルでも、価格が違うだけで客が感じる「価値」は変わります。
リスク 03

安い客層しか集まらなくなる
価格を下げると、価格に敏感な客層が集まります。
この客層は「さらに安い店」が出れば移動します。
また、「お金を使いたいと思っているお客さん」は安い店を選びません。
高単価で長く滞在して、スタッフと会話を楽しみ、
ボトルキープをするような上質な客層を引き寄せるには、それに見合った価格設定が必要です。

引き寄せたい客層から逆算する
「どんな客に来てほしいか」を決めてから価格を設定する。
客層は価格でコントロールできます。
リスク 04

バーテンダーとして「消耗」する
安い価格で多くの客を回転させようとすると、
一人のバーテンダーが何十杯もの注文をこなさなければならなくなります。
これでは「会話を楽しむBAR」ではなく「飲み物を出す作業場」になります。

BARの魅力は「バーテンダーとの会話・空間・時間」です。
それを守るためにも、適正な価格で客の回転を「ちょうどいい速度」に保つことが重要です。

価格設定の基本公式

価格設定には明確な公式があります。感覚や「他の店と同じくらいで」という曖昧な決め方をしている人は、今すぐこの公式に切り替えてください。

BARの価格設定の基本公式

原材料費(お酒・材料)÷目標原価率(20〜30%)=最低販売価格

この公式で出た数字が「最低でもこの価格にしなければいけない」というラインです。これより低い価格で提供すると、利益が出ないか赤字になります。

「目標原価率」とは何か

原価率とは「売価に対して原材料費が何%を占めるか」という指標です。BARの場合、原価率は20〜30%が適正とされています。つまり1,000円のカクテルなら、材料費は200〜300円以内に収める必要があります。これより原価率が高いと、他のコスト(家賃・人件費・光熱費)を支払った後に利益が残りません。

BARの原価率の正しい考え方

原価率の考え方にはよくある誤解があります。「原価率が低いほど儲かる」は正しいですが、「原価率が低いほどいい店」ではありません。客に伝わる「価値」と「価格」のバランスが重要です。

原価率評価BARにおける意味判断
15%以下低すぎ注意価格が高すぎる・または材料の質が低すぎる。客に「コスパが悪い」と感じさせるリスクがある。見直し推奨
20〜25%理想的適正な利益が出て、客も「納得感のある価格」と感じやすいゾーン。多くのBARがここを目指す。◎ 目標値
25〜30%許容範囲高品質な素材・プレミアムボトルを使う場合は許容範囲。それ以外は改善余地あり。○ 許容
30〜35%要注意他のコストを支払うと利益が残りにくくなる。固定費が低い小規模店のみ許容範囲。△ 要改善
35%以上危険ほぼ確実に利益が出ない。価格の見直しが急務。✕ 要見直し
ウイスキーのストレート販売は別計算が必要

ウイスキーをストレートで提供する場合、1杯あたりの原価はボトル単価÷杯数(1ボトル750mlを1杯45mlで換算すると約16〜17杯)で計算します。例えば3,000円のボトルなら1杯の原価は約180円。これを原価率20%で販売すると、1杯の売価は900円。しかし「山崎900円」では安すぎる印象を与えるため、価値・希少性・空間価値を加味して1,500〜2,500円に設定するのが現実的です。

具体的な計算例:1杯いくらにすべきか

計算例①:ジントニック(スタンダードカクテル)

  • ジン(タンカレー)1杯分(45ml)約80円
  • トニックウォーター(1缶)約60円
  • ライム・ガーニッシュ約20円
  • 氷・その他消耗品約10円

原材料費合計約170円

原価率20%で計算:170円 ÷ 0.20 = 850円(最低販売価格)
→ 実際の販売価格は空間価値・人件費・利益を含めて 1,200〜1,400円 が適正

計算例②:マティーニ(クラシックカクテル)

  • ジン(タンカレー)60ml約105円
  • ドライベルモット(15ml)約30円
  • レモンピール・オリーブ約15円
  • 氷・消耗品約10円

原材料費合計約160円

原価率20%で計算:160円 ÷ 0.20 = 800円(最低販売価格)
→ 実際の販売価格はバーテンダーの技術・空間価値を含めて 1,400〜1,800円 が適正

「原価から逆算した最低価格」は出発点にすぎない

原価率から計算した最低販売価格は、あくまで「この価格以下には絶対しない」というラインです。実際の価格は「エリアの相場・コンセプト・空間の価値・バーテンダーの技術」を加味して、もっと高く設定するのが正解です。計算した最低価格をそのまま販売価格にしてはいけません。

価格は「感覚」ではなく「計算」で決める。この習慣が利益を守る。

業態・エリア別の価格帯の目安

自分のBARがどのゾーンに位置するかを確認してください。エリアと業態によって「客が納得する価格帯」は変わります。

業態・エリアカクテル1杯の相場客単価の目安ポイント
都市部・繁華街
オーセンティックBAR
1,400〜2,500円5,000〜15,000円空間・技術・希少ボトルの価値で高単価を維持。チャージ制を採用することも多い。
都市部・カジュアルBAR1,000〜1,600円3,000〜8,000円最も多い業態。スタンダード価格帯。この記事で解説している計算式が最も当てはまる。
地方都市・住宅街BAR800〜1,400円2,000〜6,000円エリアの購買力に合わせる必要がある。ただし800円以下は原価割れリスクが高い。
スタンディングBAR・角打ち系600〜1,000円1,500〜4,000円回転率でカバーする業態。1杯あたりの原価を徹底的に下げる設計が必要。
「地方だから安くしないといけない」は思い込み

地方都市でも、コンセプトが明確で「ここにしかない体験」を提供できるBARは、都市部に近い価格帯で成立します。「エリアの相場に合わせる」のは最低ラインの参考にする程度にして、コンセプトと提供価値から価格を決めることを優先してください。

値上げが怖い人へ:価格を上げる正しい方法

「今の価格で客がついているのに、値上げしたら離れるのでは」という不安は理解できます。でも、適正価格に直さないと経営が続かない。値上げには正しいやり方があります。

❌ 失敗する値上げの仕方

  • 告知なしで突然値上げする
  • 理由を説明せず、ただ値段が変わっている
  • 全メニューを一斉に大幅値上げする
  • 値上げと同時に内容・サービスが変わらない
  • 謝りながら「仕方なく」値上げする

✅ 成功する値上げの仕方

  • 1〜2ヶ月前から「近々リニューアルします」と告知
  • 「より良い素材・より良いサービスのため」と理由を伝える
  • 段階的に・または一部メニューから値上げする
  • 値上げと同時に「何かが変わった・良くなった」を見せる
  • 自信を持って「これが適正価格です」と伝える
値上げで離れる客は「安さ目的」の客だった

値上げで離れる客は、あなたのBAR自体ではなく「安さ」を目的に来ていた客です。逆に言えば、値上げ後も残ってくれる客こそが「本当のリピーター」です。適正価格への移行は、客層の質を上げるチャンスでもあります。

「価格=価値」の伝え方

価格が高くても「それだけの価値がある」と感じさせることができれば、客は喜んで払います。価値の伝え方を意識するだけで、同じ価格でも「高い」と感じさせなくなります。

価値を伝える5つの方法

  1. 素材のこだわりを話す:「このジンはボタニカルが豊富で……」という一言で、客はその1杯に特別感を感じます。
  2. 作り方を見せる:バーテンダーの手元が見えるカウンター席では、技術・所作そのものが付加価値になります。
  3. 空間の維持費を感じさせる演出をする:照明・音楽・清潔感・グラスの拭き方——これら全てが「価格の根拠」として客に伝わります。
  4. ボトルの希少性を説明する:「このウイスキーは今や入手困難で……」という背景を伝えると、価格への納得感が増します。
  5. おまかせで「あなただけの1杯」を作る:「今日の気分を教えてください」から始まる1杯は、同じ原価でも体験価値が格段に上がります。

月次シミュレーション:価格の違いが利益にどう影響するか

同じ客数・同じ来店頻度でも、1杯の価格が違うだけで月の利益がどう変わるかを見てください。

条件:月間200杯提供・原価率25%・固定費20万円

❌ 1杯800円で設定した場合

月間売上
800円 × 200杯 = 16万円

原価(25%)
▲4万円

固定費
▲20万円

手残り
▲8万円(赤字)
✅ 1杯1,400円で設定した場合

月間売上
1,400円 × 200杯 = 28万円

原価(25%)
▲7万円

固定費
▲20万円

手残り
+1万円(黒字)

同じ200杯でも、1杯600円の差が月12万円の売上差・9万円の利益差を生む。

価格設定チェックリスト

  • 全メニューの原材料費(1杯分)を計算済みか
  • 原価率が全メニューで20〜30%以内に収まっているか
  • 固定費をカバーするために必要な月間売上を計算済みか
  • エリアの競合BAR3〜5店舗の価格帯をリサーチ済みか
  • 最も利益率が高いメニューを把握しているか
  • 価格がコンセプト・ターゲット客層と合致しているか
  • 3〜6ヶ月後に価格を見直すタイミングを決めているか
  • 値上げが必要になったときの伝え方を考えているか

「この1杯に1,400円を払いたい」と思わせる体験が、適正価格を支える。

この記事のまとめ

  1. 「安くすれば客が来る」はBARでは通用しない。安すぎる価格は経営を壊す最短ルート。
  2. 価格の基本公式は「原材料費 ÷ 目標原価率(20〜25%)= 最低販売価格」。感覚で決めない。
  3. BARの適正原価率は20〜25%。35%を超えると利益が出ない。
  4. 1杯800円と1,400円の差は月12万円の売上差になる。価格の影響力を数字で理解する。
  5. 価格はブランドイメージ。安い価格で始めると「安いBAR」のポジションが固定される。
  6. 値上げは「事前告知+理由説明+価値の向上」をセットで行う。謝りながら値上げしない。
  7. 「価格=価値」の伝え方を磨く。素材・技術・空間・おまかせが価格の根拠になる。

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